2011年09月10日

おしらせ

 タイムカンの掘り出しも無事に終了したところで、久しぶりのお知らせ。前回に引き続いて、『文学フリマ』にサークル参加いたします。

  第十三回 文学フリマ

 ・開催日  2011年11月3日(木)
 ・開催場所 東京流通センター
 ・配置場所 未定

 新刊は『タイムカン』本になる予定。10年前に始まった、当サイトとタイムカンにまつわるエトセトラを、つらつらと書き連ねた本になる予定……ですが、例によってまだ何にもできておりませぬ。大丈夫か?

 既刊本も、前回販売した『日常⊇非日常』を増版(手製本)して持っていきます。お楽しみにって、まだ2ヶ月も先だけど。(なんて言ってるとすぐに当日がやってくるのだ)

タイムカン埋蔵計画完結編 ~カップヌードルを埋めて10年後に掘った記録~

これまでのあらすじ(10年分)

 今から10年と少し前の2000年10月21日。当時高校生だった私は、友人2人と共に『タイムカン』というカップヌードルを地中に埋蔵した(当時の様子)。

 タイムカンとは、日清が2000年に限定発売したカップヌードルの一種である。特徴は「10年間保存が可能」という、文字通り"世紀を超えた"美味しさがウリの、まさにタイムカプセル的な食べ物なのであった。ゆえに、「10年間保存できるタイムカンを、タイムカプセルとして10年間埋めてしまおう」というのは、実に自然な考え方なのである。

 しかしながら、その10年後の未来を待たずして、タイムカンは無念の自主回収となった。私が別途進めていた「タイムカン10ヵ年計画」により、2004年に食品不具合が発覚したのである。2010年4月には回収告知のテレビCMが放映されるなど、割と大々的な回収がなされ、タイムカンは2010年末の賞味期限を待たずして、歴史の表舞台から姿を消すこととなった。(当サイトとタイムカンとの関係について、詳細はこのエントリを参照)

 だが、そんな回収騒動とは無関係に、2000年に埋めたタイムカンは地中に埋まり続けている。「10年後に3人で掘ろう」と、"secret base" ばりの誓いを立てて埋めたタイムカン。10年前は高校生だった埋蔵メンバも、今ではみんな社会人に。住む場所も、東京・大阪・筑波と地理的に散り散りになっており、なかなか集合の予定も合わせられないまま、ずるずると11年目の夏に突入していた。

 「10年後に集合」と一口で言っても、実はいろんな社会的要因(主にサラリーマン的な)が、あり一筋縄ではいかないということを、10年前の私たちは知る由もないのであった。あゝ、年を取るのはイヤだなぁ。

 さて、そんな延期に延期を重ねた「タイムカン掘り起こし」であるが、ここに来てようやく3人全員が集合できる目処が立ったのだ。それが2011年8月15日、埋蔵から10年10ヶ月が経った日のことであった。(長いあらすじ、終わり)


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 2011年8月15日、早朝4時。埋蔵メンバ3人、マウントポイントに立つ。

 埋蔵した場所が場所だけに、ひと気のない時間にこっそりと掘り起こすしかない、という判断で早朝に集合した(場所が場所だけに、一応モザイクをかけておく)。10年前に埋めた時はたしか夜中で、あやうく補導される寸前だったのを覚えている。まったく、何をやってるんだろうか。

 しかしこんな早朝にも関わらず、すでに散歩を開始している老人が傍らを通り過ぎていく。これはゆっくりしてはいられないと、ライトとシャベルとスコップを手に、いそいそと穴掘り作業を開始した。


 

 


 埋蔵場所の手がかりとなるのは、10年前の埋蔵時に撮影した写真である。マウントポイント決定の条件となった、「10年後でも変化がない場所であること」というのは見事に達成され、周囲は当時と全く同じ様子で、おそらく何の手も加えられていない状態で残っていた。

 写真には人工物としてレンガが写っているので、それを基準にして掘る場所に狙いを定め、ひたすら穴を掘った。


 


 穴を掘って、掘って、掘った。写真があるためすぐに見つかると思っていたタイムカンだが、意外となかなか見つからないもので、どんどん穴が広がっていく。結局、人目も憚らずに、1時間ばかりひたすら穴を掘ることになった(怪しい人だ)。

 そして徐々に日が明けてきた午前5時過ぎ、ついに土の中に怪しい人工物を発見!?


 


 タイムカンを包んでいたビニル袋(の残骸)が顔を出したのだ。10年ぶりの対面に息を飲む一同。


 

 


 そのビニル袋(の残骸)の中には、紛れもなく10年前に埋めたタイムカンが収まっていた。あぁ、10年の間にすっかり姿が変わってしまって……。しかも、一緒にビニル袋に入れて埋めてあったメッセージボード(10年前の写真に写っている木の板)は、キレイさっぱり姿を消していた。土に還った……んだろうか。改めて、10年の歳月ってすごいもんだなぁ。

 この10年の間に起こった出来事、主にタイムカン回収騒動などが走馬灯のように頭をよぎる。いろんな事があったけど、このタイムカンは、10年間ずっと同じ場所で土に埋まってたのである。時には花見客に踏み潰されながら、時には深い雪の下に埋もれながら、10年後に訪れる掘り出しの日を待っていたのである。すごいよタイムカン!


 


 と、いろいろ感慨に浸りたい気持ちをグッと抑え、まずは1時間ばかり掘った穴を埋める作業を行わないといけない。10年間つねに気にかけてきたこの「マウントポイント」も、今日からは「旧マウントポイント」である。このまま記念植樹でもしたい気分だ。

 そうこうしているうちに、すっかり日も明けてしまった。


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 タイムカン埋蔵計画は、今回の掘り起こしによって幕を閉じた。最後に、10年間土の中に埋まっていたタイムカンの様子を観察することにしよう。


 


 これが掘り起こされた10年モノのタイムカンである。10年間の長きにわたり土の中にいたタイムカンは、錆びや凹みこそあれども、それなりに原型を保っていた。さすがのブリキ缶である。ただし、蓋を開ける前からすでに異臭を放っていたため、中の様子は……。「10年後に美味しくタイムカンを食べよう」なんて言っていた当初の計画は、この時点でもろくも崩れ去ったのであった(当たり前である)。


 

 

 


 タイムカンは、缶の中に普通のカップヌードルが収まる構造になっている。今回はその缶がボコボコになっていたため、カップヌードルを取り出すにも一苦労。慎重に取り出されたカップヌードルからは、さながら幾多の戦場をくぐり抜けたかのような貫禄が漂っていた。


 


 ザ・タイムカンズ。汚いうえに異臭を放っているのだが、この汚れ具合がなぜか様になっていて格好よく感じてしまう。実際この写真を撮影していた時には、散歩中のおばさんがやって来て、興味深そうに撮影の様子を眺めた末に、「いろんな芸術があるねぇ」と関心して去っていかれた。それほどに格好いいのである!(でも本当はただの腐ったカップヌードルなんだけど)

 さて、その格好いいカップヌードルの中身はどうなっているのだろう。


 


 ……見なかったことにしよう。麺は湿気によってドロドロになっていた。まぁ、そりゃそうだろう。

 ところで、タイムカンの缶表面には、「10年後の自分へのメッセージ」という欄があり、自分でメッセージを書き込むことができるようになっていた。私は埋めるときにそこへメッセージを書いたらしくて(あんまり覚えていない)、掘り出した缶には何やら記してあった。えーと、なになに、


 


 20世紀に流行ったもの 「電子計算機、豆乳、太陽の塔、森総理、世界不思議発見、プレイステーション、AIBO、どーも、うさじい、Mr.マリック、ねこの國、インターネット、NEC、NHKマン、ピカチュー、(その他解読不能なものがいくつか)」 どうだ、なつかしいだろ! 2000年10月21日

 それは本当に20世紀に流行ったものなのか? と自分で突っ込みを入れたくなるような内容に思わず赤面してしまう。AIBO なんかは確かに頷ける内容ではあるが、NEC なんて会社名だし、他のもかなり嗜好が偏っている。もっとマシなことを書いておけばよかったと今さら思う、そんな10年前の自分からのメッセージ(?)であった。


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 以上をもって、10年以上に及んだ『タイムカン埋蔵計画』は無事に完了し、それと同時に、タイムカンにまつわるあれこれの行事はすべて完了となった。ありがとうタイムカン、さようならタイムカン……。

 この10年間は、土の中のタイムカンに思いを馳せたり、時にはマウントポイントの現地視察に行ったりと、それなりに楽しいタイムカンライフを送ることが出来た。個人的には、次の10年に向けてまた何かを埋めたいと思ってはいるが、まだ何を埋めるかは決まっていない。しばらくは、次の埋蔵物を探すことになりそうだ。


 


 この汚い缶は、メンバ3人でそれぞれ1缶ずつ持って帰ることにした。たぶん一生捨てられないだろうなぁ、と思う。汚いけど。